りんの受難 〜神との契り

 時は文禄年間、豊臣秀吉の天下。越後から会津百万石に移封された上杉景勝の食客(傭兵部隊)に、天下の豪傑前田慶次郎利益がいた。慶次郎は無役の時はたった二人の家臣、角南小吉とりん(竜胆丸)と京都の伏見に住んでいる。
 りんはまだ少年の肉体と美しい容姿、阿修羅の非情、無垢の魂を併せ持つ小吉の宝。慶次郎の長黒髪と知られる。ふとしたことから天から降り小吉に懸想され地上に止められた興福寺の阿修羅像の生き身か。
 そんな二人の間に何かとちゃちゃが入る。
 特に作者の先祖、斗升屋とその一族はうるさいうるさい。

文: 斗升屋 一書に曰くサー・トーマス
絵師:山野林梧 一書に云う、凰琳と

「夢色奇譚」の六周年記念と山野林梧様のXX歳のお誕生日に!

           挿絵は2枚描いて頂きました!


「り・・・りんに斎(いつき)の宮の巫女を!?」

 小吉の前にいる六十絡みの神官姿の男、吉田六道(よしだ・りくどう)はうやうやしく言った。
「さよう・・・二十年に一度、ご神体を新しい神殿にお移し申し上げる際に、御霊(みたま)をお守りして頂きたいのじゃ。正しくは男(を)の子なので神子(みこ)ですがな」

 上座にいるこの館の主、前田慶次郎が聞いた。
「何故、当家の家人である竜胆丸にそのような申し出をされる?しかも今までお目にかかったことは無い筈・・・」
 六道はしたり顔で言った。
「京では前田慶次殿の『長黒髪』は子供でも知っていますよ。しかし身どもが参りましたのは、柳生石舟斎殿の御推挙でな!」

「え!石舟斎様が!」
 小吉の後ろで何が始まるのだと聞いていた本人が驚きの高い声を上げた。
 六道はすかさず、
「それそれ、まだ汚れを知らぬ無垢で清らかな声と容姿を持つ稚児はそんなに居るものではない。竜胆丸殿に今年は是非お願いしたいのじゃ」
 『汚れを知らぬ』りんは小吉を恐る恐る見た。
(俺、・・・無垢ではない)

 この後、吉田が発した言葉に皆驚いた。
「竜胆丸殿は石舟斎様のお子じゃと聞いたが」
 りんが慌てて、
「それは・・・!石舟斎様は御勝手にお考えかと!でも、違います!」
 慶次郎と小吉の丸い目がりんを見た。
 吉田は続けた。
「竜胆丸殿は石舟斎殿の亡きご側室、お縫いの方様に生き写しという話じゃ」

 慶次郎がおもしろくなったという顔をして問うた。
「吉田殿はなぜ柳生石舟斎殿をご存じなのか?」
 吉田は誇らしげな顔をして言った。
「石舟斎殿の恩師の上泉信綱(かみいずみ・のぶつな)殿は我が吉田神社の女を娶っていました。そこで信綱殿が京都に在住していた頃、儂等一党は新陰流を修行したものじゃ。よって、その流れを継いだ柳生石舟斎殿とはいまだに行き来しておる」

 りんが叫ぶように言った。
「私は・・・無垢ではありません!ご存じの様に三条河原で人を斬り殺したこともあります!なんで・・・そんな俺に・・・?」
「それは問題ではない。心の話をしておる」
「私は・・・もう血で穢れています。後は地獄に行くしかない・・・そんな者に神聖なお役目が出来るものではありません!」
「竜胆丸殿は大和興福寺におわします阿修羅像をご存じか?」

 りんははっとして言った。
「は・・・い。前に主水(もんど)様とお参りしたことがあります」
 小吉は吃驚していった。
「か・・・上泉主水殿とか!?」
 りんは首をすくめて、
「お前と慶次様が朝鮮に行っていた間に俺は柳生谷へ行った。俺は怪我をして柳生家に厄介になっていた時、主水様が迎えに来てくれたんじゃ。その後、帰りに・・・いつか言おうと思ってたのじゃが・・・忘れてた」

「ほれほれ、主水殿は信綱殿の御子。そのように竜胆丸殿は何かと吉田神社に関わりがあるのじゃ。それに・・・」
 吉田六道は神妙な顔になって言った。
「あの阿修羅様も仏に対する血みどろの戦いを行ってきた神なのじゃ。それが仏の言葉に涙し、すべてを後悔して帰依した。お前もそうじゃろう。お前が斬り殺した男どもの骸を拝む姿に、あの場所に居た者どもは仏の姿を見たと言うておった」



 鎮守の森の暗闇の中、しずしずと神輿を担いだ神官の行列が進む。広大な神社の境内の反対側にある新宮に御霊を運ぶのだ。その前には錦の直垂(ひたたれ)を纏い、頭には幾つもの金銀の揺籃がたわわに揺れる金冠を頂いたりんが、環頭の柄にこれまた金銀の飾りが付いた太刀を腰に履いて歩む。その後ろに三列の冠(かんむり)を頭に乗せた稚児達が続いた。

「なんとまあ・・・美しい・・・」
「仏の守護の阿修羅様が今度は神の子になられて御霊をお守りになっている!」
 参道を取り巻く京の人々は、この滅多にない行事の行軍を見てため息をついた。

 元来、神社の遷宮の儀式は秘密裏に行われるが、この神社は民衆に公開しているのだ。親しみと尊敬を勝ち得て氏子を増やす算段もあるのだろう。この頃(文禄年間・戦国時代末期)は神仏は分け隔たり無く信仰され、同じ境内に神社と仏閣があることも珍しくない。
 りんの唇は紅が塗られ、金冠は仏寺の稚児灌頂(ちご・かんじょう)に用いられるものも凌ぐほどの見事なものであった。その前を行く神人(じにん)が持つ松明に輝く瞳と横顔は、この世のものと思われぬ神々しさと妖艶さの二面を持っていた。

 新宮の一町ほどの所に、そこだけ古代の巨木が続く森の天蓋が抜けた場所があった。十間(約18m)ほど夜空が見える道となる。
 一行がその入り口に差し掛かったとき、反対側の森に入る道からこちらに歩んでくる者がいる。
「だれじゃ!これは遷宮の御一行ぞ!道を空けよ!」
 神人が怒鳴ったがその者はずんずんとこちらに進んでくる。長く重い棒を持っている様で、歩くたびにその先を地面に打ち付け、先に付いた幾つかの金輪がじゃらじゃらと鳴った。重苦しい圧迫感が行列を覆った。

「おおー!出た出た!遷宮を邪魔する土蜘蛛の者じゃ!」
 前回(二十年前)に余興として今の宮に行く途中の行列を邪魔せんとして、屈強な者を天狗に仕立て儀礼的な大立ち回りを見せられたことを、皆覚えていた。
 大男は行者の格好をして頭は烏帽子、顔は戦に使う猿頬(鉄で出来た顎と口を覆う防具)をしていて顔は分からない。天狗らしく高い下駄を履いている。上背は六尺(1.8m)を超える様だ。

 ところが神官達は泡食った。
 今回の余興にはないことだ。誰ぞが気を利かして扮装して現れたのか?
 露払いの松明を持った神人達は、自分たちは聞いてないが、位の高い神官が気まぐれで思いついたのじゃろうと、後ろを見てりんを手で招いた。
「降魔(ごうま)の剣でお払いをしてくらはりませ!」

 仕方なくりんは太刀を左手で持ちながら前に出て誰何(すいか)した。
「行列を邪魔する者は誰ぞ!これは御霊の御列(おんれつ)なり!」
 誰もがこれで天狗に扮した者は退散するだろうと考えた刹那、

「うん!」
 天狗は六角棒を右に流し右足を引いた瞬間、それを軽々と頭の上に振り上げ、りんめがけて打ち下ろした!

 うわあと周りの者達から悲鳴が上がった。その中で見ていた慶次郎と小吉も驚いて柄に手を伸ばしていた。

 りんの頭が粉々になると皆が思った瞬間、りんは後ろに思い切り左足を下げ、刀に手を置いたままで体を引いた。棒はりんの顔をぎりぎりに掠って地に落ちた。あきらかに殺意がある。
「!」
 りんは無言の気合いを発し、右足を踏み込み太刀を横に抜き打った。振り下ろされた右腕に斬りつける目にも止まらぬ早さだった。抜く間に左足を前に出し、右足を再度引きながら腰で長い太刀の切っ先を回した。

「おう!」
 天狗は左手を垂直にしてりんの太刀を受けた。きんという音がした。
「む!」
 天狗は飛び下がった。左手には鉄の板が巻き付けてあった様だ。右手にも巻いてあったが、押さえなければ弾かれた太刀先は天狗の喉元を襲っていただろう。りんの金冠の揺籃が美しい音で鳴っていた。
「ふふ・・・りん!大したものだ!ますます気に入った!また会おう」
「あ・・・あなたは!」

 天狗は踵を返すと笑い声を上げながら元の道に走り去った。
 慶次郎と小吉がりんのもとに駆けつけたときはその姿は既に闇に紛れていた。
 演技と思っている周りの観客は呑気にやんややんやと手を打った。


 無事に御霊を新宮に移し申し上げ御霊移しの儀式は滞りなく終了した。

 その夜、新宮の御霊が安置されている堂の宿直(とのい)の部屋にりんは一人、斎の神子として泊まっていた。

 この夜は神の『妻』として一夜の伽をするのだ。儀式として寝ずの床にある。冠は上座に置き、薄い帷子(かたびら)(薄い寝間着)に着替えたが、化粧はそのままである。宝髻(ほうけい)に結われたもとどりから、金冠の中で巻かれていた長い髪を後ろに垂らした姿は高貴な公家の子弟かとも思われる。
 新宮の隣の板台ではよっぴいて神楽が舞われていた。それを見入る観客が思いついたようにりんの宿直所に行こうとするのを神官達は取り締まっている。神との同衾の儀式を穢されまいと神官達は気が気ではない。

 これからりんは秘中の秘と言われる密事を行わねばならないのだ。これは慶次郎にも小吉にも知らされてはいない。支度の時、人払いをして六道はりんに頭を畳に擦りつけて頼み込んだのだ。この密事を成功させないと御霊は安らんで鎮座しないと言う。りんはその儀式の内容に驚いたが、六道がこれが出来ないと切腹をすると訴えたので、仕方なく了承した。六道の顔は歪み、歓喜に涙した。この後、りんは吉田神社の神の眷属となり、いざという時は神人達の力を借りることが出来るという。
(もしもの場合、慶次様のためにその力を使えれば・・・)
とりんは考えた。

 りんは絹の布団の上に端座し、前の三宝の上の和紙に置かれた小さな刀の様なものを見ていた。しかし心はここには無かった。
「・・・小吉、怒ってるだろうな・・・」
 主水が柳生谷に迎えに来てくれたことは小吉には話していたが、一緒に大和奈良の興福寺に行ったことまではしゃべっていなかった。そこで阿修羅像を見たが、その夜にそれを強奪せんとして襲ってきた蓮華王院(三十三間堂で有名)の僧兵と戦って守った。
「あれは、確か明院と名乗ったお坊様・・・」
 今日、襲ってきた天狗の仁王のような体躯と声は、聞き違えようがなかった。阿修羅像が生き身となった様なりんを気に入り、戦いながらも儂のもとに来いと言った男。りんを試すためにわざわざ天狗のなりをしてやってきたのだ。

 自分がやらねばならないことを思い出して、りんは三宝の上に乗っている小刀を手に取った。エイの尻尾の棘を刀のようにあつらえ、和紙が透明になるほど香油が塗られていた。棘は刀の根本の方に向かって寝ている。刺すときは深く、抜こうとするとその棘は肉を切り裂くだろう。

「小吉・・・俺、罰を受けるよ・・・おまいに全部話さなかった罰・・・」

 りんは帯を解き、帷子の前を肌けた。そして指を香油に浸すと両の乳首にそれを塗った。
「ああん・・・」
 りんは小吉に乳首を吸われた感触を思い出し、思わず甘い声を出した。代わる代わるになぶるとつんと勃ってくる。息がだんだん激しくなる。
 そしてその指を後ろに回し、蕾を慣らし、深く挿れていった。
「うん・・・く」

 外からはぴ〜ひゃらどんどんという笛と太鼓の単調な音が止めどもなく続く。巫女達がそれに合わせて体を揺らせて踊っているのだ。長い単調な音楽で踊っていると徐々に体が火照り、精神が高揚してくる。そしてそれが極まると幻覚を見て神の声が聞こえてくる者が出て来る。

 りんは笛と太鼓の調子に合わせて腰を振り出した。指は男の子の秘部を探り出す。
「ああ!・・・あん・・・こ・き・ち・・・」
 りんの喘ぎは激しくなり、腰を浮かせ肉体を反らせ、可愛い口から舌で唇を舐める・・・りんの茎が勃ち上がって来た。
 りんの乳首をまさぐっていた左手はエイの棘を持ち、尖った先をその鈴口にそろりと入れた。
「あう!」
 そして棘を半ば堅くなった茎に深く差し込んでいった!油でまみれた棘はさほど抵抗もなくりんの体内に差し込まれていく!

 精神と肉体が浮遊しはじめたりんには痛みは感じられなかった。それよりも下腹部の内部よりずんと熱い快感の波が押し寄せてくる。香油には催淫薬が含まれていた。
「小吉!・・・許してくれるよね!・・・」
 愛する男の名を呼んだとき、りんの肉体はその絶頂に喘いだ。
「あ・・・あ!・・・あ!・・・あ!・・・」
 止めどなく寄せては返す桃源郷の快楽にその精を射出させようとするが、棘で出ない。
「く!」
 りんは棘を引き抜いた!
「あう!・・・いや!・・・ああー!」
 前に伏せ、大腿を合わせて尻を突き出して、りんの肉体はその茎から鮮血の混じった尊い液が迸るたびに痙攣した。

           


             ******

「これを飲むのじゃ・・・よくやった。礼を言うぞ」
 翌朝、六道は神との契りを結んだ神子の証として、布団に飛んだ『処女』の血を含んだ『おりもの』を確認してりんに薬を与えた。青い黴(かび)を薬草と煎じたものだ。若い肉体の粘膜は一眠りした後は既に治癒に向かっていた。

「このことは誰にも言ってはならぬ。慶次殿と小吉殿にもじゃ。神と儂がこのことを知っているのみじゃ」
 明るくなって明院が棒を打ち付けた跡を見ると、土が一尺(30cm)も凹んでいた。その様な荒ぶる天狗を退散させたりんを怒らせたらどうなるかを考えて、六道は身震いをした。そして必死に自分の犯した行為を隠そうとしているのだ。
 丁重にりんを駕籠に乗せ送り出した後、六道はにやりとした。

(しかし・・・恐ろしいがそれだけ価値のあることじゃ!竜胆丸の尊い体内から出たものを独り占めじゃ!兄者にもやらんぞ!愚腐腐・・・)
 この男は、あの斗升屋の舎弟であった。





この儀式はテレビを見ていて真似した・・・マヤ帝国(だったかな?)の王様が自己犠牲のため本当にやったことなんだって・・・エイの棘もその時使われていたって。うう・・・いたそー。またりんに斬られる!

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